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 特別講座編:オノマトペ〜擬音語・擬態語   はじめに 入門編 基礎編 中級編 上級編

 特別講座編への扉                           語感ジャーナル第52号より
 
 みなさま、おはようございます。
 いよいよ中級編も完了し、次号からは特別講座編に突入していきます。

 前回までの中級編では、会話で使われることばを、あいうえお順に順を追って紐解いていきました。
 「ありがとう」や「がんばります!」などに秘められた語感の魔法を楽しんでいただけたのではないでしょうか。

 さて、新しい扉の向こうに控える特別講座編でのテーマは、「オノマトペ」です。
 語感の視点から光を当てて、オノマトペのものがたりを紡いでいけたらと考えています。

 オノマトペとは、擬音語・擬態語の総称です。
 たとえば、がちゃん、とか、わんわん、ざわざわ、しとしと、きらきら、にこにこ、にょきにょき、わくわく、
 などがそうですね。

 つまり、オノマトペというのは、ものが壊れたり、擦れたり、ぶつかったりする場合に出る音響や、
 動物の鳴き声、動作や状態をあらわし、また、事象のありさま、現象、動きや状態を描写的に
 表現したものです。

 ざっくばらん、や、すってんころりん、もオノマトペなのですよ。

 口にするだけで楽しい気分になってしまう、オノマトペ。
 次回からお届けする、オノマトペに隠された語感の秘密をどうぞご期待くださいませ。


 
 特別講座編 「からから、くるくる、ころころ」             語感ジャーナル第53号より 

 からから、くるくる、ころころ。
 
 これらのオノマトペを口にすると、硬いものが転がっているイメージがすっと頭に浮かびますよね。

 たとえば、枯れ葉やこま、どんぐりが転がっている感じ。

 地面の上を、北風に吹かれてからからと。
 テーブルの上をくるくると。
 坂道をころころと転げ落ちていく。

 カ、ク、コ、のK音は、喉をくっと硬くして、強く息を出して喉をブレイクさせて出す音。そのとき、息は
 最速で口腔内を駆け抜け、唾液と混じらないので、ことばの中でも最も乾いています。
 また、K音を発した直後、のどちんこのあたりの軟口蓋と呼ばれる丸くせりあがった部分が、丸く緊張する
 現象も。つまり、この丸くて硬く、スピード感があって乾いたイメージが、そのまま潜在意識に浮かび上がる
 のです。

 そして、ラ、ル、ロ、のR音は、丸めた舌の先を、上の歯の付け根あたりで弾いて出す音。この弾く動きは
 軽やかなリズム感を生み出します。リズミカルなイメージが、連続していく印象も想起させます。
 
 ですから、からから、は、乾いたもの(カ)が継続している(ラ)状態を表しています。どちらも母音が
 開放感を表すアなので、口をずっと開け続けて発音する様子が、いっそ乾いたイメージを増幅させる。
 まさに、「喉がからから」の状態を表現していますよね。

 くるくる、は、硬いもの(ク)がリズミカルに躍動している(ル)状態を表しています。
 母音が小ささをイメージさせるウなので、小さくて硬いものが回転している様子とぴったり。
 ねじをくるくると巻く、なども、小さいねじが回転している状態ですね。

 ころころ、は、硬くて丸いもの(コ)が転がっている(ロ)様子を表しています。
 どちらも母音がオですので、特に、丸いものが転がるイメージ。
 もしくは、勢いよく、スムーズに転がっているイメージでしょう。
 大きなものや重量のあるものだと、ごろごろ、という表現になるでしょうから、少し軽めのものが転がって
 いる感じですね。石ころやどんぐりなどでしょうか。おむすびも、ころころ、かも。

 
 からから、くるくる、ころころ、は、硬さと回転の質K音と、リズムと連続の動きの質R音で成り立っている
 ということ、おわかりいただけたでしょうか。
 普段何気なくつかっているオノマトペなのに、実は、発音体感で語られてしまうほどの、
 事象と体感がベストマッチしたことばだったのですね。 



 特別講座編2 「お父さんはカンカンだ」             語感ジャーナル第54号より
 
 1974年のテレビドラマ「寺内貫太郎一家」の貫太郎父さんは、頑固で、短気で喧嘩っ早い雷オヤジでした。
 毎回、ちゃぶ台をひっくり返して、怒る父親「貫太郎」。いつも、お父さんは「カンカン」になってしまうのです。

 貫太郎の「カン」は、「カンカン」に怒ってくれそうな感じがして、雷オヤジに、ぴったりな名前ですね。
 この貫太郎が、怒るシーンは、期待通りの大暴れで、人気がありました。
 
 さて、この「カンカン」。「お父さんはカンカンだ」という使い方のほかに、「カンカン照り」のように、太陽が
 強く照りつけるようなときにも、鐘を「カンカン鳴らす」のようにも使います。

 同じ「カンカン」なのに、いろいろなイメージがあるのはなぜでしょう?
 それは、K音の発音体感に秘密があります。

 K音は、のどの奥をいったん、くっつけて、ここに強い息をぶつけて出す音です。硬い密着点を息が
 通過するには、息を突き出すように強く出さなければなりません。その飛び出した息は、口腔内を最速で
 通過し、その際、つばと混じらないので、乾いています。
 このため、硬さ、強さ、スピード感、ドライ感がつくられます。

 「カンカン」には、K音の持つイメージの、「硬い」「強い」印象が、強い怒りを思わせる場合もあり、
 また、日照りの「乾き」や、「硬い」ものを鳴らすということを思わせる場合もあるのですね。

 また、「か、く、こ」を発音した後、のどには、丸い空洞ができます。このため、回転や、曲面を思わせ
 ます。先週のコラムの「カラカラ」「コロコロ」は、回転するイメージは同じですが、それぞれに、
 違う質感を持っています。
  
 空き缶のようなものが転がるのも「カラカラ」で、のどが渇くのも「カラカラ」と言いますね。
 これは、「か」の回転するイメージと、乾いたイメージをそれぞれ表しているのです。

 同じように、「コロコロ」も、「どんぐりコロコロ」と、丸いものが転がるイメージを表したり、
 「コロコロとした子犬」のように、まるい形状をイメージさせる表現に使ったりします。

 このように、同じことばに複数のイメージがありますが、みんなK音がつくるイメージなのです。
 そして、複数あるK音のイメージを、一緒に使う言葉との関係で、臨機応変に使いこなしているのですね。




 特別講座編3 「そそくさと席を立つ」               語感ジャーナル第55号より

  自分の分はきっちり終わらせ、そそくさと帰る。
 さっと帰る支度をし、そそくさと席を立つ・・・。

 いかにもあわただしく、忙しい様子が伝わってくる「そそくさ」。
 
 そそくさ、というオノマトペに、ゆったりしている人や、ぼんやりしている人は似合いませんよね。

 ではなぜ、動きの早さを感じるのでしょうか。

 それは、「そそ」「さ」のS音による効果なのです。
  
 「そそ」は、大きい口腔内に広く息が吹きわたる音。
 大量の風がさわやかに吹きわたるので、スマートですばやい印象があります。
 「さ」は、開けられた口からさっと前向きな息が飛び出し、開放感とさっぱり感を思わせます。
 さっと去っていく感じですね。

 S音が3つもあることによって、風がたくさん吹きすぎ、”スマートさ””素早さ”などのイメージを
 通り越して、”あわただしさ”や”忙しそう”なイメージを感じさせるのです。
 さらに、きゅっと止まる「く」との印象の落差が、吹きすさぶ風をより印象づけています。

 
 このようにして、S音には、さわやかな風が吹くことによるスピード感、爽快感、すべる感じ、
 などの印象を感じさせています。
 「さっさと帰る」「さっとテーブルをふく」「すっきりする」など、他のオノマトペにもそのイメージが
 よく表れていますよね。 



 特別講座編4 「ひょっこりひょうたん島」               語感ジャーナル第56号より

  『ひょっこりひょうたん島』は、NHKで約5年にわたって放映された人形劇です。この人形劇を
 見ていなくても、「波をちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ、かきわけて(ちゃ〜ぷ、ちゃ〜ぷ、ちゃ〜ぷ)、
 雲をすいすい、すいすい、追い抜いて(す〜い、す〜い、す〜い)」の歌を聞いたことのある人は
 多いのではないでしょうか?

 ひょうたん島が、漂流するオノマトペに、「ちゃぷちゃぷ」「すいすい」とは、桃太郎さんの桃が
 「どんぶらこ」と流れるのに比べると、縁日のゴム風船ヨーヨーみたいに軽くて、おもちゃの
 船のように小さい印象ですね。

 灯台があって、人が10人、ライオンが1匹住める大きさの島なので、もっと、重々しい音が、
 ふさわしいところです。しかし、島が、船のように海を漂う奇想天外な大冒険の人形劇には、
 この軽やかさが、ピッタリだったのでしょう。
 だから、歌って楽しい歌として、40年以上たっても、愛されているのかもしれません。

 さて、『ひょっこりひょうたん島』の「ひょっこり」も、「思いがけない」ことが起きるさまを
 表しています。「ひょいと持ち上げる」の「ひょい」のように、軽く、速く動く感じがします。
 気がついたら、すぐそばに出現している感じです。

 これは、H音の発音体感によるもの。肺の中の空気を素早く口元に運ぶので、とても速い印象が
 あります。このため、いつの間にか、そこにあるような素早さを感じさせるのです。

 物語も、正に意外性の連続。火山が爆発して動き出す島、なぜか海賊の持ってきたテレビから
 ドン・ガバチョが出てくるなど、素早い展開で意外性に満ちていましたね。




 特別講座編5 「危なっかしくてハラハラドキドキ」           語感ジャーナル第57号より
 
 ちびっこが包丁を握って、初めてのりんごの皮むき。
 それを見守るこちらとしては、手を貸してしまいたいのをぐっとこらえる。
 指を切りはしないかと、ハラハラドキドキしながら。

 ハラハラドキドキ。
 口にするだけで、こちらも心拍数が上がりそうなこのオノマトペは、「ハラハラ」と「ドキドキ」の
 ふたつのことばがあわさっていますね。
 今回は、「ハラハラ」の語感をひも解いてみましょう。

 ハは、熱い肺の中の空気が一瞬のうちに口元に移動する、息の音。しかも、空気は、唇の外へ
 出た瞬間に霧散して消えていくのです。
 ラは、丸めた舌の先を、上の歯の付け根あたりで弾いて出す音。この弾く動きによって、
 軽やかなリズム感を生み出しています。

 なので、熱い息が口元にのぼっては消え、のぼっては消え、という連続した現象が繰り返される
 イメージが、「ハラハラ」と発したときに立ち上ります。
 それはまさに、居ても立っても居られない精神状態を表していますよね。

 「サラサラ」だと、すべらかで涼しげ。
 「タラタラ」だと、濡れていて艶やかな感じ。

 やっぱり、小さな手で包丁を扱う様をはたから見つめるときには、
 「ハラハラ」しかないようですね。 
 
 



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